親権より大切な、離婚後の父母のやりとり【前編】

 共同親権制度の運用が始まりました。離婚や親子交流(面会交流)をめぐる事案を数多く手がけてきた生井澤葵弁護士は、「親子交流は共同親権にするかどうかにかかわらず重要なもので、その際には親同士のやりとりの仕方が鍵になる」と語ります。前編では、親子交流の現場では何が起こっているのかを中心に、お聞きしました(取材・文/奥田由意)。

生井澤 葵 弁護士

お話をお聞きした方

生井澤 葵 弁護士

なまいざわ・あおい。弁護士(63期・埼玉弁護士会)、 中央大学法科大学院客員講師。早稲田大学法学部を卒業後、 中央大学法科大学院修了。主な著作に 『面会交流調停等における手続代理人の役割と課題―台湾の制度との比較から―(上・下)』 (中央ロー・ジャーナル第21巻第1号・2号)、『どうなる共同親権!?どうする面会交流!?』(恒春閣)がある。 ブログ「 弁護士女子。〜越谷の女性弁護士の日々〜 」を執筆中。

共同親権で親子は会いやすくなるか

――共同親権制度が導入されましたが、現場でどのような手応えを感じておられますか。

生井澤 これから離婚しようとしていて、子どもが手元にいない方は、いまやほぼ全員が共同親権を望まれる印象です。単独親権でよいという方には、私は最近お会いしていません。当事者の意識は、すでに大きく変わったと感じています。

――裁判所の判断についてはいかがですか。

生井澤 現段階では、裁判所が明確に共同親権を命じた例を私はまだ把握していません。判決という形をとらずに、調停で父母が共同親権に合意する例はあるでしょう。調停委員の方々も、勉強会などで熱心に学んでおられます。なかには、本当に父母が上手にコミュニケーションを取ってやっていけるのか、という不安を抱いている方もいらっしゃるかもしれません。
 もっとも、親子交流(面会交流)にまつわる問題は、共同親権制度の導入以前から存在していました。離婚後に親子交流をするための父母間のやりとりは、単独親権であっても大変なことがあります。共同親権になれば、こうした場面はさらに増えるでしょう。その現実に、日本の社会全体が向き合う必要が出てきたということだと思います。

――共同親権になれば、離れて暮らす親が子どもに会いやすくなると考える人は多いと思います。

生井澤 私はもともと、共同親権制度導入の是非について強くこだわっていたわけではありません。親権がないと子どもに会えないわけではないし、また共同親権になったからといって、子どもと自由に会えるようになるとは限らないからです。一方で、子どもをもうけた親は、離婚した場合には親子交流を意識するべきだと思っていました。親子交流は、共同親権が議論される前からある重要な問題だと考えています。

――そもそも「親権」という言葉が誤解を生みやすいとも言われます。

生井澤 ええ。共同親権制度導入の法改正でも、複数の専門家が「親権という言葉はやめるべきではないか」と指摘していたようです。「親の権利」と書くせいで、親が子を意のままにできる、という印象を与えてしまう。世界的には、親が子に負う配慮義務や負担といった表現のほうが一般的です。親が子に負う義務、いわば「親務」という視点こそ、本来はふさわしいと思います。
 離婚後に親子交流をするのも、親が子どもに対して負う責任です。男女として別れたとしても、親子の縁は別です。親子の縁を保つことは権利ではなく、義務のようなものだと思います。子どもを自分の延長として考えるのではなく、一人の人間として尊重し、虐待などの特別な事情がなければ、原則として、その子どもと両親の縁をどう結ぶかを考えて、親子交流を考える必要があります。

――具体的に、離婚後の親子交流はどのようにして実現されるのでしょうか。

生井澤 親子交流の実現に必要なことは、共同親権でも単独親権でもそれほど変わりません。理屈のうえでは、離婚と併せて親子交流のルールを取り決めればいいということです。
 でも現実には、離婚の手続きが終わり、弁護士が去ったあとに、父母だけで親子交流の運用を続けられるかどうかが難しいのです。淡々と日程調整ができればよいのですが、余計な一言を言ってしまったがために、親子交流自体が危うくなったり、父母間の問題が子どもに影響してしまったりして、関係がこじれて、親子交流が難しくなることがある。
 だからこそ、メッセージの伝え方のルールを学ぶ必要があると思うのです。子どもがいる夫婦が離婚を選ぶのであれば、一度は離婚後の元配偶者とのやりとりの仕方を学ぶ機会があると良いと思います。逆に、それをしなければ、離婚後の父母間のやりとりは難しくなる可能性が高くなるのではないでしょうか。

親の意向と子どもの意思

『どうなる共同親権!?どうする面会交流!?』(恒春閣)
生井澤葵弁護士の著書『どうなる共同親権!?どうする面会交流!?』(恒春閣)

――親子交流の現場で起きがちな問題については、ご著書『どうなる共同親権!?どうする面会交流!?』(恒春閣)でも書かれていますね。共同親権とは何か、親子交流や調停がどういうものか、共同親権の様々なパターンについても、ペンギンのイラストを使って大変わかりやすく説明されています。

生井澤 ありがとうございます。あの本は、1年以上前、共同親権が世間で騒がれるよりも前に出したものです。著名な先生方が書籍を出される前に私が先に出すことになり、かなり緊張しながら書きました。わかりやすくなるよう、私が描いたペンギンの絵の図解も入れました。

――親子交流の際に、待ち合わせ場所や時間帯を工夫されるお話も示唆に富むものでした。

『どうなる共同親権!?どうする面会交流!?』(恒春閣)
著書では、離婚後の親権・監護のパターンがイラストで解説されている

生井澤 たとえば、屋外で待ち合わせて雨が降り、週末で相手方の弁護士とも連絡がつかず、相手を外で待たせてしまったとしましょう。そうすると、待ち合わせは原則として室内にするほうがよい、と身にしみてわかります。こうした細かいコツは意外に重要なのですが、誰も教えてくれませんでしたから、最初は手探りでした。
 また、親子交流をあまり特別なイベントとは考えずに、習い事の送り迎えなど、日常の中で、自然体で会うことも大切なのではないかとも思っています。

――離婚案件ではどのような方からの依頼が多いのでしょうか。

生井澤 父親側と母親側、そして子どもと一緒に住んでいる親とそうでない親、いずれのパターンも経験しています。私が女性であるせいか、最も多いのは子どもを手元で育てている母親の依頼者で、次に多いのが、子どもと離れている父親の依頼者です。
 事務所が埼玉にあるので、共働きで埼玉から都心に通勤するご夫婦が多いですね。専業主婦の方のご依頼もあります。その場合は、離婚を考えているなら、離婚後はご自身で生計を立て、子どもを養う責任があるとお話しして、就職をお勧めすることもあります。実際多くの方が職を得ておられます。

――離婚後の親子交流について、どのような考えの依頼者が多いですか。

生井澤 依頼者によりまったく異なります。特に母親の依頼者は考え方の幅が広く、驚くほど親子交流に寛容な方もいらっしゃいます。親と子が互いに自立していて、子どもを一人の別の人格として捉えていらっしゃるように見受けられます。
 一方で、さまざまな事情から、子どもを父親に会わせたくないという強い意志をお持ちの方もおられます。その場合は、事実関係やお気持ちを考慮して、裁判所との関係も見据えつつ、落としどころをご本人と一緒に探っていくことになります。親子交流をしないほうが良いのか、するならどの程度するのか。ここは最も神経を使う難しい局面です。

――父親の依頼者はどうですか。

生井澤 親子交流の実現に至っていない父親のなかには、強く苛立っている方もいらっしゃいます。お気持ちはとてもよくわかりますが、それをそのまま相手にぶつけても、親子交流はなかなか実現しません。憤りが収まらない方には、「父親だと主張し続けるだけで会えるのですか、会うために何ができるかを一緒に考えませんか」とはっきりお伝えすることもあります。その言葉をしっかり受け止めてくださる誠実な方が多いです。
 子どもを手元で育てている父親は、数こそ少ないのですが、私の今までの経験では、親子交流に寛容な方が目立ちます。子どもの身に危険がないのなら、子どもには母親も必要だろう、会わせてよいのではないか、とおっしゃる方が多いですね。親子交流を全面的に拒むお父さんには、ほとんどお会いしたことがありません。

――弁護士としては、依頼者である親の意向を尊重することになるのですか。

生井澤 そうです。弁護士の職務は依頼者の意向を実現することですし、現実的にも、監護親の協力がなければ親子交流を進めるのは難しいですから。
 ただ、それと同じくらい大事だとも言えるのが子どもの意思です。家庭裁判所で行われる調査官調査でも、よほど厳しい環境でないかぎり、子どもは自分の気持ちを口にします。その声をどう受け止めるかということです。子と親の関係を客観的に捉えることは、とても大事だと考えています。

――子どもの意思は、何歳くらいから考慮されるのですか。

生井澤 近年は意思が考慮される子どもの年齢がやや下がっているという意見もあり、一概には言えません。子どもが親に会いたいかどうかは、感覚的な話ですから、小学校低学年でも会いたいと言えば、裁判所はそれを尊重する方向です。2、3歳でも、親を慕い関心を持っていれば、子に身の危険のないかぎり、裁判所はある程度考慮してくれると感じています。
 また、私がこれまで見てきた限りでは、親子交流について、子どもの意思を無視して自分の好きにしてよいと考えているような親は一人もいません。みなさん、相手と子どもの縁をどう扱うか、距離の取り方に悩んでいらっしゃいます。その悩みに丁寧に応えていくことが、私にできることだと思っています。

弁護士が依頼者の子どもと会うことの意味

――依頼者のお子さんに直接会われることもあるそうですね。

生井澤 はい。弁護士が依頼者の子どもに会うべきかどうかについては、賛否はあるようですが、周囲に会っているという弁護士が多かったこともあり、できるだけ会うようにしてきました。
 お子さんに会うときは、父母の間の話が子どもの耳に入ることのないよう、依頼者との打ち合わせとは別に日を設けます。事務所を見てみたいというお子さんの希望があれば事務所で、そうでなければ、近くの喫茶店などで。聞きたいことはないですか、とか、一緒にごはんを食べましょう、と声をかけます。何かを聞き取るというよりも、お子さんの不安を和らげるためです。のちに親子交流に私も立ち会う必要があるとき、初対面ではお子さんも身構えますから。

――ご著書から、先生は離婚が成立したあとも、依頼者へのフォローをしていらっしゃる様子がうかがえます。

生井澤 そうしないと、せっかくの親子交流の取り決めが立ち行かなくなるからです。離婚成立でいったん委任契約は終わりますが、その後も数か月ほどやりとりを支える必要があることがあります。相手からこういうメールが来たがどう返すべきか、といった相談に対して、文面を添削することもよくあります。

――親子交流はどの程度の頻度で行われることが多いのでしょうか。

生井澤 裁判所が命じる標準的な親子交流の回数は、月に1回程度です。ただもちろん、具体的にどう連絡を取り合って親子交流を実施するのか、といったサポートまで裁判所がしてくれるわけではありません。弁護士がついていない事案では「月1回」と決まっても、その後具体的にどうするか途方に暮れる方も少なくありません。

――ご著書では、台湾の例を紹介しておられますね。なぜ台湾に関心を持たれたのですか。

生井澤 元々趣味で中国語をやっていたのですが、ふとしたきっかけで、台湾が選択的共同親権を採用しているということを知り、関心を持ちました。それに加えて、大学院の恩師が、台湾大学の先生や裁判官とお話する機会を与えてくれたという幸運もありました。
 台湾の裁判所では、カウンセラー等による双方向の支援が用意されていて、離婚後の親同士の関わり方をサポートしています。一方日本では、離婚する夫婦にコミュニケーションの方法をメソッドとして教える場は、今はほとんどありません。最高裁判所が子どもをめぐる話し合いの方法などについて動画を公開してくれていますが、どうしても一方通行になってしまいがちで、実践の方法を話し合うような機会はありません。離婚した親への教育という点では、日本より台湾のほうが幾分丁寧だと感じていました。
 その違いが気になっていたので、池袋の書店で『元夫・元妻とのやりとりがラクになる 共同親権のLINE・メール術』が新刊書として平台に積まれているのを目にして、これだ、と思わず手に取りました。

※インタビュー後編は7月下旬公開予定